調査・質問内容

質問番号 0010005723
状態 受付済
質問日 2021/08/09

船の名前にはなぜ「~丸」と付けるのか、インターネットで調べたところ、以下の説1~5が見つかったが、それぞれの説について、出典資料が知りたい。

説1:もともと自分のことを「麿」と言っていたのが敬愛の意味で人につけられ、更に犬や刀など広く愛するものに転用された。その「麿」がやがて「丸」に転じて船にもつけられるようになった。
説2:本丸、一の丸といった城の構造物の呼称を船に見立てた。
説3:中国で、人間に船を造ることを教えたとされる「白童丸」の「丸」を取った。
説4:排泄を意味する古語の動詞「まる」に由来する。わざと醜い名前をつけて、悪いことが近づかないようにした。
説5:かつて家名(「~屋」)を「~丸」のように呼び、例えば、問屋のことを「問丸」と言った。そこから、「~屋」の所有する船にも「丸」をつけるようになった。

図書館からの回答

回答状態 公開済
公開日 2021/12/16
関連質問番号

都立図書館蔵書検索を、<便覧><辞典><知識>などのキーワードに、件名<船舶>や<海事>を掛け合わせて検索し、ヒットした資料を確認したほか、国立国会図書館の蔵書検索や論文が検索できるデータベース等で、<船名 丸>や<丸号>、<船 丸 由来/起源/なぜ>等のキーワードを掛け合わせて検索したところ、以下のとおり資料・情報が見出せた。

情報1
雑誌:『海』(11) 「海」発行所 [編] 「海」発行所 1928.12(国立国会図書館永続的識別子 info:ndljp/pid/1497977)(図書館送信参加館内公開)
p.5(コマ番号 4)「船名「丸」の意義」(中村猪之助)
この資料は都立図書館に所蔵がないため、国立国会図書館デジタルコレクションで確認した。
質問にある5説(以下、説1「美称説」、説2「城郭説」、説3「白童丸説」、説4「不浄のまる説」、説5「問丸説」と略記)のうち、説4「不浄のまる説」以外の説と、その他の説に関する説明及びその出典が書かれている。なお、「美称説」によく似た「愛称説」という説もある。

説1「美称説」については、「七、船の名を何丸と名づくること、或る人の説に「まろ」はもと卑下の詞にて、己れのことを「まろ」と云へるは、我れと云ふ意味にして、今に云ふ拙者・私などと言うのと同義である。(中略)後には親しみて云ふ詞となつて、(中略)それで身の守として賴み思ふ劍刀の類に小烏丸、鬼丸、友切丸などの名があり、(中略)大船に何丸とつけたのも、萬里の波濤を渡る故に、命をかけた名であつたのを、後美稱となつたのである。(後略)」とあり、出典は「傍廂二編下」とある(引用冒頭の「七」とは、この記事に出てくる7番目の説であることを意味する(以下同)。)。

説2「城郭説」については、「三、舟を丸と稱するは、舟の形、渾圓にして、天體にのつとるがためである城郭の丸、(本丸・二の丸・三の丸)と云ふも之と同じ意味である」とあり、出典は「和漢船用集二」とある。

説3「白童丸説」については、「一、支那の大昔、黄帝の臣、大撓子と云ふ人に、天から白童丸と云ふ者が降りて來て、船を敎へた。それ故に船に「丸」と云ふ字を付けたのだと傳へてある(後略)」とあり、出典は「和漢船用集」とある。

説5「問丸説」については、「二、古くに、家名を丸と呼んだ、即ち今の屋の如く呼んだ。例えば問屋を問丸と云ふが如きである。船の丸號も、家名の屋號からとつて舟の嘉號としたのである」とあり、出典は「小栗實記」とある。

資料1
p.61-67「日本船名「丸」の起源について」(南波松太郎)
船名「丸」の起源について、説1~3及び5を含む、10の説を挙げたうえで、著者独自の説も2つ提示しており、p.62に、各説に関する記述がある書籍とその刊行年代が一覧になっている。
(なお、説4「不浄のまる説」以外の各説の略称は、こちらの論考によった。)

情報2
雑誌:『海事史研究 : Journal of the Japan Society for Nautical Research』 33号 日本海事史学会 1979.10(国立国会図書館永続的識別子 info:ndljp/pid/2642109)(図書館送信参加館内公開)
p.82-92(コマ番号 44-49)「船の丸号考資料」(金指正三)
船名「丸」の起源についての論考を、人物ごとに紹介しており、説1~3及び5についての言及があるほか、その他にも様々な説が取り上げられている。

前掲の情報1、2及び資料1を基に、それぞれの出典とされる資料にあたった。
末尾に付いている「二」や「二編下」等は、巻次と推測されるため、それらを省いた形で、都立図書館や国立国会図書館の蔵書検索でキーワード検索をしたところ、以下の資料が見出せた。
なお、いずれの出典資料も、元は江戸時代に書かれた書物のようだが、今回は翻刻資料等を確認した。

資料2
「和漢船用集」が2つの説の出典とされていたため、まずこの資料2を確認した。
p.44-45「和漢船用集巻第二 丸號之事」に関連の記述がある。
出典として書かれていた、説2「城郭説」、説3「白童丸説」だけでなく、説5「問丸説」についても記述があり、その出典として「小栗實記五」と書かれている。

資料3
「傍廂 後篇<巻之下>」(斎藤彦麿)のうち「舟の名を何丸といふ事」という項目(p.117)に、説1「美称説」にあたる記述がある。

資料4
前掲の情報1、2及び資料1、2の記述より、こちらの資料4を確認した。なお、情報2及び資料2には「小栗實記五」と書かれていたため、「小栗實記巻之五」の部分を見た。
p.321-330「小栗助重結婚於照姫」のうち、p.322の3行目に「問丸」の語が登場し、その説明書きとして、説5「問丸説」にあたる記述がある。


残る説4「不浄のまる説」については、以下の調査過程を経て、資料を確認した。

まず、「国立国会図書館オンライン」の検索でヒットした雑誌記事(資料5)を確認したが、はっきりとした言及は見出せなかった。

資料5
p.80-84「淀川考(19) 日本に固有な船名と「丸」の由来」(樋口覚)
南方熊楠の論考「トーテムと命名」等に言及し、「丸」が不浄を意味する「まる」(糞をまる)と関係することについて書かれている(p.82)。
船名に「丸」と付けることについても触れられているが、船名の「丸」が不浄を意味する「まる」に由来する、とは書かれていない。

資料5の出典と考えられる南方熊楠の「丸」に関する論考(資料6、7収録)も確認したが、言及は見出せず。

資料6
p.19-37「トーテムと命名」のうち「丸・麿」の項(p.28-30)
p.54-55「船舶に命名せる最古の物」のうち「船に丸字を加ふる事」

資料7
p.190-195「丸 "Maru" 1」
説1:「美称説」にあたる『傍廂』の記述を引用し、補足や考察を加えている。
p.196-197「丸 "Maru" 2」
「丸 "Maru" 1」の後日補足。

続いて、調査の手がかりを得るために「GoogleBooks」をキーワード<船名 丸 排泄 古語>等で検索したところ、次の資料8がヒットした。

資料8
p.169-172(※)「航海の無事を祈って船名に「丸」」(※本文はp.172までだが、脚注がp.173まで続いている。)
人名のマロ・マルから船の名前に転用されたのだろうとしたうえで、そもそも人名にマロを使うようになった由来の一つとして、次のような記述がある。

「マルといふ古語の動詞があり(中略)体の外へ出す、排泄する、大小便をする、の意。(中略)その糞便を受ける器の意の名詞マルから、男子人名の接尾語マロが生じた。(中略)古代人は糞便を単にきたならしいもの、不浄なものと考へてゐたのではなかつた。生命の根源である恐ろしいもの、豊かなもの、力強いもの、鬼神もこれを避けるものと考へてゐた。そこで、その強いものを名前につけることによつて魔よけにしよう、災厄を避けようとした(中略)同様に古人は、航海の安全を祈つて船の名にマルをつけたのでせう。」(p.171-172)

なお、「糞便を受ける器の意の名詞マルから、男子人名の接尾語マロが生じた」という説の出典は、「『貞丈漫筆』や『消閑雑記』」と書かれている。

出典資料のうち、『消閑雑記』は、資料9に収録あり。
もう1点の『貞丈漫筆』については、都立図書館では所蔵がなく内容は未確認だが、「国立国会図書館オンライン」で確認する限り、国立国会図書館には「和古書・漢籍」として所蔵がある(情報3)。

資料9
「消閑雑記」(岡西惟中)の「人の名に麻呂とつくることの考」の項目(p.211-212)を確認した(項目名は目次より)。
「まるは不浄を入るゝ器なり。不浄は鬼魔のたぐひも嫌ふものなり(後略)」等の記述がある(p.211)。

情報3
『貞丈漫筆』(国立国会図書館請求記号:146-134)
https://id.ndl.go.jp/bib/000007309409

調査に使用した主なデータベース等は次のとおりで、最終検索日・最終アクセス日は2021年10月21日である。

【調査に使用した主なデータベース等】
・「国立国会図書館オンライン」(国立国会図書館)https://ndlonline.ndl.go.jp/
・「レファレンス協同データベース」(国立国会図書館)https://crd.ndl.go.jp/reference/
・「CiNii Articles」(国立情報学研究所)https://ci.nii.ac.jp/ja
・「J-STAGE」(国立研究開発法人科学技術振興機構 [JST])https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja
・「Google Books」https://books.google.co.jp/

参考文献

タイトル 注記
【資料2】和漢船用集 / 金沢兼光 著 / 住田正一 編 / 厳松堂書店 / 1944.8 <R/5503/2/44> p.44-45
【資料3】日本随筆大成 第3期 1 / 日本随筆大成編輯部 編 / 吉川弘文館 / 1976.10 <J450/5/3-1> p.117
【資料4】京都大学蔵大惣本稀書集成 第5巻 / 京都大学文学部国語学国文学研究室 編 / 臨川書店 / 1996.9 <0815/3002/5> p.322
【資料5】雑誌:一冊の本 8巻1号通巻82号(2003年1月) / 朝日新聞出版 / 2003.1 p.80-84
【資料6】南方熊楠全集 第7巻 / (文集 3)/ 南方熊楠 [著], 渋沢 敬三 編 / 乾元社 / 1952.5 <0818/79/7> p.19-37, p.54-55
【資料7】南方熊楠英文論考 <ノーツアンドクエリーズ>誌篇 / 南方熊楠 著, 飯倉照平 監修, 松居竜五 [ほか]訳 / 集英社/ 2014.12 <081.6/5031/2> p.190-195,p.196-197
【資料8】丸谷才一の日本語相談 / 丸谷才一 著 / 朝日新聞社 / 2002.9 <810.4/5051/2002> p.169-172
【資料9】日本随筆大成 第3期 4 / 日本随筆大成編輯部 編 / 吉川弘文館 / 1977.1 <J450/5/3-4> p.211-212

転記用URL

https://catalog.library.metro.tokyo.lg.jp/winj/reference/search-detail.do?qesid=0010005723&lang=ja

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