事例詳細
調査・質問内容
質問番号 | 0010009070 |
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状態 | 受付済 |
質問日 | 2025/07/31 |
なぜ「ある」は動詞なのに、対義語の「ない」は形容詞なのか。解説している文献はあるか。
図書館からの回答
回答状態 | 公開済 |
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公開日 | 2025/09/30 |
関連質問番号 |
分類<810>(日本語)や<815>(文法・語法)の棚にある資料の品詞についての記述を確認しました。
また、「国立国会図書館デジタルコレクション」や「Google」を<あるとない 動詞 形容詞 日本語>等でキーワード検索し、ヒットした資料を確認しました。
参考になる資料を紹介します。
資料1『日本語学研究事典』
p.195-196「事項編 一 理論・一般 9 文法 品詞」(山口明穂)
「「ある」「ない」が別の品詞となったのは、「ある」という語の表す内容が時間の経過に伴い変化する要素を持ったからであり、「ない」の表すものは、その要素を持たず、持続的な内容という他の形容詞と近い内容を持ったからである」(p.195)と書いています。また、「ある」が古語では「あり」という形であったことに触れ、歴史的には形容詞に近いものであったとしています。
資料2『桜美林論考言語文化研究』 3号(2012年3月)
p.45-60「「いる」と「ある」の言語学 その打消形の構造について」(鈴木繁雄)
「ある」について「その意味合いは静的であり、固定的であり時間的変化というものがない。その点で「ある」は動詞よりもむしろ形容詞に近いのである。しかし、活用変化から見れば他の動詞と同じであり、形容詞ではないのだが、語彙のはたらきとしてはまさに形容詞としての資質を備えている」(p.58)と書いています。「若い」と「老いる」、「貧しい」と「富む」のような関係であると例示しています。
この論文は以下のウェブサイトで公開されています。
「「いる」と「ある」の言語学 その打消形の構造について」(桜美林大学学術機関リポジトリ)
https://obirin.repo.nii.ac.jp/records/943
資料3『逸遊雑記』
p.249-254「痴酊記 「ある」と「ない」」
「活用からいうと、「ある」は自動詞、「ない」は形容詞である」(p.249)としたうえで、どちらも状態を表現するときに用いるため、「「ある」も「ない」も、活用は異るが、どちらも「状態詞」と認めてよさそうである」(p.250)としています。
資料4『中学生の国語』
p.231-243「單元一四 文法のあらまし」
p.235-236で、「ある」と「ない」は存在するかどうかという働きの点では同じですが、活用形をみると品詞が異なることに触れています。
資料5『日本のことばとこころ 言語表現にひそむ日本人の深層心理をさぐる』
p.69-75「I ことばの視点 11 形容詞の「ない」について」
「「ある」は動詞、「ない」は形容詞。品詞こそちがいますが、日本語の形容詞は【単独で】述語になる点で動詞的な性格であり、特にこの二語は、ともに「話し手の主体的な把握」にかかわる点でよく似ています」(p.70)と類似性を指摘しています。※【】内は原文は傍点
p.75-81「I ことばの視点 12 形容詞と話し手」
品詞のちがいに「微妙なことばの心理が秘められています」とし、「ある」の場合「確認すべき対象が【現実に存在】していることが前提になります」等とする一方、「ない」という場合「五感を総動員してもその対象が【見つからない】ことを意味します」等と述べています(p.76)。※【】内は原文は傍点
資料6『講座日本語の文法 3』(品詞各論)
p.132-143「形式用言とは何か」(京極興一)
「二 「ある」と「ない」」(p.135-140)で、「ある」と「ない」をそれぞれどのような品詞に分類するか、3つの学説を比較しています。「ここに梅の木がある(ない)」という場合について、いずれの学説も「ない」は形容詞としていますが、「ある」については、動詞とする2説のほか「存在詞」という品詞として扱った山田孝雄による説も紹介しています。
資料7『日本語文法事典』
p.367-368「存在詞」(大鹿薫久)
用言を動詞・形容詞・存在詞に分けた山田孝雄の学説から「存在詞」を解説しています。
意味や活用の特徴から動詞・形容詞のどちらに分属するともいえないため、山田孝雄は「あり(ある)」や「をり」などを「存在詞」と定義したと書いています。
以下は、日本語の「ある」「ない」について西欧語と比較している資料です。
資料8『大正っ子のおしゃべり』
p.25-27「ある、なし」
「日本語で、「ある」は動詞、「ない」は形容詞で、まったく別の種類のことばであるのに対し、西欧のことばでは、「ある」という表現に対し、「ない」の方は、これに打消すことばを付加して表現するのが多い」(p.25)としています。
資料9『動詞人間学』(講談社現代新書)
p.27-28「ある 存在感情の希薄さ」(橋本峰雄)
「ある」と「ない」の品詞が異なることに触れ、西欧語で否定語が副詞(副次的なもの)であるのに対して、対等に「詞」となりうる点に日本語の特徴があると考察しています。
資料10『ことばじゃことばじゃことばじゃ』(ことばのエアロビクス 1)
p.154-185「日本語と日本人のあいだ 日本語の仕組み」(山下秀雄)
波瀬満子と資料5の著者である山下秀雄の対談です。「「ある」と「ない」のあいだ」(p.182-185)で、「ある」と「ない」の品詞の違いに触れ、日本語と英語の「ない」の違いを説明しています。
また、東京都立図書館蔵書検索(https://catalog.library.metro.tokyo.lg.jp/winj/opac/search-detail.do?lang=ja)を件名<反対語>、キーワード<対義語>等で検索し、反対語に関する資料を確認しました。
いずれも「ある」「ない」の項はありますが、品詞の違いについての解説はありません。
資料11『三省堂反対語対立語辞典』
資料12『反対語対照語辞典 活用自在』
資料13『反対語対照語辞典』
資料14『反対語大辞典』※品詞の記載のみあり
資料15『反対語辞典』
資料16『新編反対語辞典』
資料1、10、14-16は都立中央図書館で所蔵、資料2-6、8、9は都立多摩図書館で所蔵、資料7、11-13は両館で所蔵しています(2025年8月6日時点)。
【調査に使用したデータベース類】(*印のついているものは、都立図書館で契約しているオンラインデータベースです。)
・国立国会図書館デジタルコレクション(国立国会図書館)https://dl.ndl.go.jp/
・Google(Google)https://www.google.com/
・ジャパンナレッジLib(ネットアドバンス)*
インターネット情報等の最終検索及びアクセス日は、すべて2025年8月6日です。
参考文献
転記用URL
https://catalog.library.metro.tokyo.lg.jp/winj/reference/search-detail.do?qesid=0010009070&lang=ja1/1