事例詳細
調査・質問内容
質問番号 | 0010009080 |
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状態 | 受付済 |
質問日 | 2025/08/03 |
「市民協働」という意味で「協働」という語が使われ始めた時期について調べている。インターネット情報では、「1977年にヴィンセント・オストロム(Vincent Ostrom)氏が論文で、Coproductionという用語を用いたことで生まれ、1985年に荒木昭次郎氏の論文によって日本に紹介された」という記載を複数見かけたが、いずれも伝聞のような書き方なので元の資料に当たりたい。
図書館からの回答
回答状態 | 公開済 |
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公開日 | 2025/09/30 |
関連質問番号 |
1977年のVincent Ostromの論文は、雑誌『Urban affairs annual reviews』Vol.12に掲載の「Comparing urban service delivery systems structure and performance」である。掲載誌は日本国内の複数の大学図書館に所蔵があり、該当の論文は無料の電子図書館「Open Library」に登録の上、ログインすれば本文を閲覧できる。
1985年の荒木昭次郎氏の論文は雑誌『季刊行政管理研究』32号(1985年12月) p.30-41に掲載の「公的サービスの協同生産理論モデル –その実際的適用への批判的分析と評価–」である。掲載誌は都立多摩図書館で閲覧できるほか、「国立国会図書館デジタルコレクション」の図書館・個人送信サービス対象資料となっている。なお、該当の論文においては「協同」という語が用いられているが、2012年刊行 の『協働型自治行政の理念と実際』における再録では「協同」が「協働」に置き換えられている。
<調査過程>
1 インターネット情報の内容について確認
「CiNii Research」をキーワード<荒木昭次郎>で検索し、ヒットした以下の情報1及び資料1を確認。
情報1 雑誌『アドミニストレーション』28巻2号(2022年2月)(都立図書館所蔵なし)
p.120-150「豊かな自治を目指して: 荒木昭次郎の思索を辿る」(澤田道夫)
文中には、荒木昭次郎と「協働」概念に関する以下の記述がある。
・1980年代に荒木昭次郎が「協働」概念を初めて提唱した。(p.121)
・荒木がアメリカで「コプロダクション」(Coproduction)という概念に出会い、「協働」という言葉に翻訳して日本に導入した。(p.126)
・1985年12月の『季刊行政管理研究』に「公的サービスの協同生産理論モデル」という論文を掲載し、コプロダクション概念についてまとめた成果を発表した。該当の論文においては「協働」ではなく「協同」という字が用いられているが、後年の著書『協働型自治行政の理念と実際』における再録では「協働」に置き換えられている。(p.127-128)
この資料は、熊本県立大学学術リポジトリにて本文を閲覧できる。
http://rp-kumakendai.pu-kumamoto.ac.jp/dspace/handle/123456789/2153
資料1 雑誌『アドミニストレーション』16巻 3・4号(2010年3月)
p. i-x「荒木 昭次郎(あらき しょうじろう)教授 略歴」
該当号は「荒木昭次郎教授、久間清俊教授、米澤和彦教授退職記念号」として発行されている。略歴には荒木昭次郎の学歴、職歴、学会報告、著書、論文等がまとめて掲載されている。
2 荒木昭次郎の1985年の論文を調査
情報1に記載のある「公的サービスの協同生産理論モデル」が掲載されている資料2及び資料3を確認。また、資料1掲載の略歴内、「Ⅶ 論文」に1985年及び1985年度の論文として記載のある4点の掲載誌である資料2、4、5、6を確認。さらに、「CiNii Research」でも著者名<荒木昭次郎>で検索し、1985年及び1985年度の論文として該当の4点のみヒットすることを確認。論文4点のうち、資料2及び3に掲載の論文にのみ、「Coproduction」について記載があった。
資料2 雑誌『季刊行政管理研究』32号(1985年12月)
p.30-41「公的サービスの協同生産理論モデル –その実際的適用への批判的分析と評価–」(荒木昭次郎)
文中には、「コプロダクション(Coproduction)」に関して以下の記述がある。
・「公的サービスの協同生産=コプロダクション(Coproduction)という用語とその概念は,わが国では未だほとんど馴染みのないものである」(p.30)
・「この用語は公共選択学派の主導的立場にあるインディアナ大学のV・オストロム及びE・オストロム教授夫妻が1977年に使用しはじめたものである。」例として「Comparing Urban Service Delivery Systems」と「Alternatives for Delivering Public Services: Toward Improved Performance」という論文に該当の語が見い出せる。(p.39注1)
・p.30等、文中においてはCoproductionの訳語として「公的サービスの協同生産」という語が用いられているが、p.36には「協同生産は市民とサービス機関職員とが協働していくことを前提にしている。」といった記述があるなど「協働」という語も用いられている。
(国立国会図書館デジタルコレクション 国立国会図書館内/図書館・個人送信限定公開:https://dl.ndl.go.jp/pid/2838929 該当箇所のコマ番号:18-23)
資料3 『協働型自治行政の理念と実際』(2012年)
p.119-139「公的サービスの協働生産理論モデル」
資料2に掲載の論文の再録だが、サブタイトルが削られているほか、情報1に記載のとおり「協同」が「協働」に置き換えられている。
資料4 雑誌『行動科学研究』18巻1号通巻22号(1984年)
p.81-94「アメリカ合衆国における「地方の裁量権」の研究 ~州の支配か地方の自治か?~」(荒木昭次郎)
1985年3月発行。アメリカ合衆国における地方自治の特質と課題について記述がある。市民協働に関する記載はなし。
資料5 雑誌『地域開発』247号(1985年4月)
p.58-71「「 ワシントン二都物語」 –首都ワシントンの都市問題–」(荒木昭次郎)
「海外リポート」として、都市としてのワシントン特別区の特徴や抱えている問題について記述がある。市民協働に関する記載はなし。
資料6 雑誌『行動科学研究』23号(1985年)
p.1-11「ニューヨーク市政府の構造」(荒木昭次郎)
1986年3月発行。「調査リポート」として、ニューヨーク市及び市政府の構造や特徴について記載がある。市民協働に関する記載はなし。
3 荒木昭次郎の著作を調査
都立図書館蔵書検索を著者名<荒木昭次郎>で検索し、ヒットした図書のうち、刊行年と主題が近い資料7を確認。
資料7 『参加と協働 新しい市民=行政関係の創造』(1990年)
p.3-34「第1章 コプロダクションと自治行政」
p.6に「「 コプロダクション」(Coproduction)という用語は、一九七七年、インディアナ大学の政治学者ヴィンセント・オストロム教授が「地域住民と自治体職員とが協働して自治体政府の役割を果たしてゆくこと」の意味を一語で表現するために造語したものである(Vincent Ostrom, Comparing Urban Service Delivery Systems,1977 A)。」と記述がある。
4 資料2、3、7に記載の英語文献について調査
「CiNii Research」をタイトル<Comparing Urban Service Delivery Systems>で検索したところ、『Urban affairs annual reviews』という学術誌のvol.12に掲載された論文であり、複数の大学図書館に該当号の所蔵があると確認できた。
また、「Open Library」で以下の情報2が公開されていることがわかった。
情報2
「Comparing urban service delivery systems structure and performance」Vincent Ostrom,Frances Pennell Bish 1977(Open Library)
https://openlibrary.org/works/OL18320651W/Comparing_urban_service_delivery_systems?edition=comparingurbanse0000unse
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以上、インターネット情報等の最終検索及びアクセス日は、すべて2025年7月23日。
参考文献のうち、資料1、2、4~7は、都立多摩図書館所蔵資料、資料3は都立中央図書館所蔵資料である。
参考文献
転記用URL
https://catalog.library.metro.tokyo.lg.jp/winj/reference/search-detail.do?qesid=0010009080&lang=ja1/1